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2024/07/19

部門横断の人財活用で業務システム開発を内製化。Microsoft Power Platform で効率化 DX を推進する渋谷区の取り組み

人口減少や高齢化などが大きな社会問題となっているいま、自治体は限られた予算や人員の中で行政サービスの提供を維持する必要があり、DX 推進による行政サービスのデジタル化や業務プロセスの効率化は、喫緊の課題と言えます。

国の施策として「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」が策定され、2023 年には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されるなど、自治体の積極的な DX 推進が推奨されるなか、さまざまな理由で思うように計画を進められない自治体は少なくありません。なかでも DX 推進人材の不足に悩む自治体は多いのではないでしょうか。
東京都渋谷区では、自ら業務変革をリードできる DX 推進人財の育成を進め、Microsoft Power Platform を駆使し業務システムを職員自ら開発する取り組みを活性化しています。部門横断の人財活用で業務システム開発を内製化している渋谷区の取り組みを紹介します。

Shibuya City

渋谷区 ICT センターの危機感から生まれた DX 推進ロードマップ

渋谷区は、納税のキャッシュレス化や公的申請のオンライン化、全国に先駆けて区立の小・中学校の児童生徒にひとり一台のタブレット端末を配布し、ICT 教育を推進する「渋谷区モデル」の確立といった施策により、DX 先進自治体として知られています。

そのような渋谷区も、5 年ほど前までは、行政サービスのデジタル化や ICT 活用が十分に進んでおらず、区民の利便性向上や業務効率化の面で課題を抱えていました。

「いまでこそノート PC が全職員に貸与され、庁内に限らずどこでも業務ができる環境が備えられていますが、旧庁舎時代は DX とはほど遠い状態でした」と振り返るのは、同区の DX 推進の一翼を担う、渋谷区 デジタルサービス部 ICT センター 課長補佐の宇都 篤司氏。2019 年に新庁舎に移転するまでは、ひとり一台の PC はあったものの、その多くがデスクトップ型で無線 LAN すらなく、新人職員の入職後もしばらくの間は PC が支給されないような状況もあったといいます。

そこで同区では、新庁舎への移転を機に「全国の自治体で一番のデジタル環境を目指そう」と、オンライン コミュニケーションやリモート ワークに対応できるインターネット環境、どこにでも持ち運べるノート PC、そして当時自治体ではほとんど導入実績のなかったクラウド サービス Microsoft 365 E5 を全庁導入。DX 推進の土台となる環境を整えました。宇都氏ら ICT センターのメンバーは、この環境を存分に生かしてもらえることを期待していました。渋谷区 デジタルサービス部 ICT センター アプリケーションチーム 主任 髙木 純 氏は導入当初について次のように振り返ります。「たとえば職員が自分で簡単にアプリなどを作れるツールの活用です。外部に委託すると、コストや時間、手間もかかるため、費用対効果の見込めない軽微なシステムの構築や改修については自分たちで解決できるほうがいい。そこに Microsoft Power Platform のノーコード・ローコードのアプリを役立ててほしいと考えていました」

ICT センターの職員がアプリの使い方をレクチャーするという告知を行い、Microsoft Teams 上にコミュニティをつくって職員間の相互扶助が一部見られましたが、全庁への広がりまでには至りませんでした。ICT センターのメンバーは、この状況に危機感を抱いたといいます。

「デジタル環境の整備によってそれなりに業務生産性の向上は見られましたが、私たちが期待したほどではありませんでした。このままでは区民の皆さまにデジタル化による十分なベネフィットをお届けできません。そこで、職員のなかからデジタル ツールによる業務効率化に興味を持つ人財を選抜して、DX について学んでもらい、所属組織の業務改革をリードしてもらう体制を目指した DX 推進ロードマップを策定しました」(宇都氏)

DX の本質を学び、所属部署の DX 推進を担う「DLS」の誕生

こうして始まったのが、DX 推進活動であり、この活動の中心となるのは「デジタルリードスタッフ (DLS)」です。DLS とは、DX の本質を学び、所属部署の DX 推進を担います。自己推薦もしくは所属長推薦で参加希望を募り、さらに人事課による適正の確認を経て指名される建てつけとなっています。

「私たちが重視しているのは、本人の意欲です。こういったデジタルがらみの募集は若手職員や以前 IT の部署にいた人財が選ばれがちです。しかし、各職場の業務の DX 化や新技術活用を前提とすることが定着するためには、年齢や経験は関係なく “やりたい” という意思を持った職員を任命することが大事だと思っています」と語るのは、DX 推進プロジェクトで研修の実務を担当している渋谷区 デジタルサービス部 ICT センター アプリケーションチーム 主任の久保 遼太朗氏。

髙木氏も「活動自体がトップ ダウンではなく、私たち自身が現状を改善したいという意気込みを持って始めたものですから、しっかりとしたビジョンを提示して、共感してくれた人に参加してもらうことが盛り上がりにつながると考えました」とうなずきます。

DLS のメンバーは各課 1 名以上、基本的には継続参加を条件として募集。2023 年度には自己推薦 7 名、所属長推薦 49 名の計 56 名が集まり、2024 年度には追加で 12 名推薦され計 68 名に増員しました。

「複数名を推薦してくる熱心な部署もあり、ありがたかったですね」と宇都氏。ICT センターが DLS を育成するにあたって大切にしたのは、業務全体を俯瞰する視点を持たせることでした。その理由について宇都氏は、「私たちは、ツールや自分の身の回りの業務改善ありきではなく、業務を端から端まで見渡して区民の皆さまが利益を享受でき、区職員の業務が改善できる箇所を特定して、本当に必要なツールや改善方法を考えることこそが DX の本質だと考えています」と力を込めます。

久保氏も「研修では技術や知識もしっかり身につけてもらいますが、まずは業務の端から端まで見渡すための業務俯瞰図の作成方法や、そもそも DX とはなんなのかというマインドを学んでもらうことに力点を置いています」と強調。DLS になって初めての研修では、一人ひとりが自分たちの業務の全体像を掴んだうえで、DX によって改善すべき部分とそのために必要なツールを考えていくという、問題起点の考え方を学ぶプログラムを受講するといいます。

DLS のモチベーションアップのために表彰制度を組み込む

「就任後早い段階でDXのあらましから Power Platform の各アプリの操作、RPA 開発、データ利活用など、さまざまな研修を受講してもらいます。そして、半期に一度 「DLS MeetUp」と名づけた成果発表会を開催して 特に優秀、横展開可能な DX 事例の紹介をおこない共有しています。事務の効率化に貢献したということで事例に関わった DLS メンバーが後日表彰されました」(久保氏)

「DLS MeetUp には、副区長など区の上層部が参加して直接 DLS メンバーと対話する場面も設定されています。上層部との対話は普段の業務ではなかなか得られない体験ですし、モチベーションの喚起につながると思っています」(宇都氏)

渋谷区 デジタルサービス部 ICT センター アプリケーションチーム の日高 大介 氏は、第一期 DLSメンバーのひとりでした。

「もともと IT に興味を持っており、渋谷区に入職したのも IT の仕事がやりたかったためなので、DLS の話を聞いたときにはぜひやりたいと手を挙げました」(日高氏)

日高氏は DLS として、所属課のテレワーク管理システムを構築。Power Platform のアプリ群を活用し、職員がテレワークで業務を行う際に、業務内容や進捗状況を入力・共有・集計できるシステムです。システムによって、テレワークの管理が効率化され、業務の進捗や成果を把握しやすくなった点が高く評価され、第 2 回 DLS MeetUp 後に表彰されました。「研修で学んだことを生かして成果を出せたと感じていたので、最後に評価してもらえたのは嬉しかったです」と、DLS としての活動を振り返ります。

俯瞰的な視点で業務を見直し、多くの優れた業務システムが誕生

日高氏の例でも分かるとおり、DX 推進プロジェクトは順調な滑り出しを見せています。髙木氏によると、第 2 回 DLS MeetUp で発表された事例は、どれもレベルが高かったとのこと。

たとえば、渋谷区には歩行が困難な区民の方をサポートするためのタクシー券の交付サービスがあります。これまでは、紙で申請された書類を一枚一枚システムに手で入力し、それを印刷して返送するというフローだったのですが、申請書のスキャン画像を文字認識ツールでデータ化し、システムへの入力に RPA を活用することで入力業務を自動化できるようになりました。LINE 申請も実施済であったため区民の方の利便性が向上するとともに職員の業務改善もできました。業務の端から端まで改善できた事例です。

また、お子さまの発達や育児について不安や悩みを抱える区民の方からの相談窓口では、受付担当者が相談内容を担当者ごとの Microsoft Excel に入力して、別の担当者がひと月分の相談内容をひとつの Excel ファイルに集約、さらに年間集計表の Excel ファイルに転記して資料を作成するという、集計用の Excel ファイルが3種類存在する状態でした。DLS がこの非効率性に気づき、ICT センターのサポートを受けながら最初の入力先を Microsoft SharePoint に変更して Power Query で集計するシステムを構築。その結果、データの集約や転記作業が不要となり、担当者の入力作業のみで済むようになりました。

それから、各課が申請した補助金等が入金されているかどうかを確認するには、会計管理室が公開フォルダにアップロードする PDF ファイルを都度チェックして、自分たちの課の収入があった場合にはその画面キャプチャを Teams にアップロード。さらに、各担当者がそれを確認した上でシステムに入力するというプロセスが必要でした。そのプロセスのうち、PDF から自分たちの課の記載を発見、回収してフォルダに格納するまでを Microsoft Power Automate Desktop で自動化することで簡素化。担当者は日次でフローを実行するだけでよくなり、年間 20 時間程度の作業量軽減につながりました。

「いずれの事例も、他の部署でも容易に模倣できて横展開が図れる事例だったこともあり、DLS MeetUpの参加者からは大変好評でした。事例を共有することによって、各職員の DX 化のアイデアが増えるため、今後も継続して DLS MeetUp を開催したいと考えています。」(髙木氏)

DLS の成果について、渋谷区 デジタルサービス部 ICT センター アプリケーションチーム 主任 山田 光太 氏は次のように語ります。「どの事例も、一人ひとりの業務負担はそこまで軽減されてはいませんが DLS が俯瞰的な視点で業務を見直した結果、チームや年間単位で見れば大幅な業務改善を達成できました。まさに DLS の役割が達せられた事例だと考えています」

「さらに大事なのは、どれも多少の IT の素養があれば簡単につくれるシステムなのに、それまで現場からは要望が上がってきていなかったこと」と山田氏。半日から数日でできるような簡易なシステムであっても、それぞれの現場の困りごとが吸い上げられなければつくることはできません。業務に精通した DLS という存在があったからこそ、現場のニーズに適い、費用対効果も高い業務システムの開発を実現できたのです。

DLS を支える ICT センターを、さらに下支えするユニファイド サポート

DX 推進プロジェクトがスタートしてから 1 年間で、DX 業務に関する DLS から ICT センターへの相談は 120 件。DX 化業務相談受付のアプリも Power Apps で作成しました。アプリ上で相談を新規登録すると、Power Automate により、Teams に新規のチャネルが作成され、ICT センターアプリケーションチームの Planner にタスクが自動で登録される仕組みになっています。相談状況や進捗は PowerBI により自動でレポート化されます。より詳細な質問も多く寄せられているため、ICT センター内での人的リソースの確保や DLS の所属部署との調整が今後の課題になっていると宇都氏。一方で Teams のコミュニティでは、DLS の質問に別の DLS が回答するような場面も見られるようになっているそうです。(髙木氏)

「ICT センターの補佐的な役割も期待できますね」と笑顔を見せながらも宇都氏は、「DLS の皆さんと一緒に DX を進めるにあたっては、ICT センターの私たちもスキルアップしていく必要があります」と気を引き締めます。

宇都氏が言及した ICT センター職員がスキルアップし、DX 推進を加速させるための施策のひとつとして、マイクロソフトの製品専門エンジニアからのサポートが受けられる、日本マイクロソフトの「ユニファイド サポート」を導入しています。宇都氏は、実用的で最適なシステムを実現するためには、ユニファイド サポートの支援は重要であると語ります。

ユニファイド サポートについて「かゆいところに手が届く細かな支援が魅力」と評価する山田氏。「自分でつくったシステムの実現性に不安があるようなときや、細かな設定をしたいときなどに質問させていただいています。何時間もかけてインターネットの情報を調べ、試行錯誤しなくても、ユニファイド サポートのスペシャリストの方に開発画面を Teams で共有しながらその場でアドバイスをもらえるのはとても助かります」(山田氏)

「今年度は ユニファイドサポートに加え、Power Platform のツールの使い方だけでなく、DLS など職員の皆さんが実際にツールをつかってアプリやフローをつくる際の支援メニューを加える予定です。より技術的な内容への対応も必要になってくる可能性があるので、ユニファイド サポートで相談させてもらう機会が増えるのではないかと思います」(久保氏)

大切なのは最先端の技術を取り入れるだけでなく、それを使いこなせる組織づくり

現在、第 2 期に入っている DX 推進プロジェクト。成果を実感できた瞬間について髙木氏はこう振り返ります。

「第 2 回 DLS MeetUp はオフラインとオンラインのハイブリッドで開催したのですが、事例発表後には質問コメントが止まらなくなるほど盛り上がりました。興味深い事例が多かったこともありますが、Teams 上では役職をあまり意識せずに発言できる点も関係していたと思います。上層部も管理職も若手職員も入り混じって活発な議論が行われているのを見て、企画してよかったと思いました」(髙木氏)

DX 推進プロジェクトの効果を肌で経験した日高氏は、「ICT センターの所属になって改めて感じるのは、ICT 担当はデジタルだけに精通していればよいわけではないということです。各部署がどのような業務を行なっているのかをしっかり理解しなければ、的確な支援はできません。これからしっかり学んでいきたいと思っています」と、IT 担当者としての成長に目を向けています。

今後の展開について「昨年度は取り入れられなかった生成 AI についても、今年度以降は研修メニューに取り込んでいきたいと思っています」と髙木氏。現在 ICT センターでは Copilot for Microsoft 365 などの検証も進めており、生成 AI の活用方法を探っているといいます。

一方で宇都氏は、「大切なのは最先端の技術を取り入れるだけでなく、それを使いこなせる組織づくり」であり、その先にある区民サービスの向上という目標を忘れてはならないと気を引き締めます。

「私たち ICT センターは、区民の皆さまの QOL に寄与することをビジョンのひとつに掲げています。そのビジョンを実現するためには、区民サービスのデジタル化を進めて利便性を高めることと、庁内の DX を推進して業務を効率化し、区民の皆さまと接するための時間をつくり出すことが重要です。日本マイクロソフトさんにも引き続き手厚いサポートを期待しています」(宇都氏)

渋谷区の取り組みを見ると、DX の推進に本当に大切なことは、便利なツールを揃えるだけではなく、それをどのように生かせばより役立つものがつくり出せるかを考えることだと気づかされます。それはいかなる組織においても共通して持つべきマインドなのではないでしょうか。

私たち日本マイクロソフトとしても、DX に臨むマインド醸成に役立つサポートを心がけ、そのうえで自治体ごとに異なる諸課題を解決するためのツールやソリューションをご提案してまいります。

“上層部も管理職も若手職員も入り混じって活発な議論が行われているのを見て、企画してよかったと思いました”

髙木 純 氏, デジタルサービス部 ICT センター アプリケーションチーム 主任, 渋谷区

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