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2026/04/10

デンソー 工機部、Dynamics 365 を活用し 10 年先を見据えた AI 伴奏型のものづくりを実現

労働人口減少、ベテラン技術者引退、若手人材の採用難など、ものづくりを取り巻く環境は厳しさを増す。自社専用の設備づくりを担うデンソー 工機部も例外ではない。製品ライフ サイクルが短縮化する中、設備製作納期の長期化・コスト増大も課題だ。

同部は 10 年先を見据え、設備づくりとマネジメントの変革に着手。Microsoft Dynamics 365 をプラットフォームに、コミュニケーション情報と設備づくりの情報・ノウハウを蓄積。それらのデータを、AI や AI エージェントから活用することで、AI 伴奏型の業務を推進する。

マイクロソフト製品を統合的に活用した AI DX により、約 20% の作業工数が削減され、年間約 8 万時間の創出が期待される。これにより、従業員は創造や判断を担う業務により一層集中できるようになる。同部はこの変革を日本のものづくり復権への第一歩と位置付け、邁進している。

DENSO CORPORATION

10 年先を見据え、AI DX により設備づくりとマネジメントを変革

世界有数の自動車部品メーカーであるデンソーにおいて、生産技術を支える工機部。自社製品を製造する専用設備の設計・製作を担う同部は、1949 年創立のデンソーの成長とともに歩んできました。現在、製作する生産設備数は年間約 1,500 台におよび、「1 個の不良品、0.1 秒のロス」に徹底的にこだわるデンソーのものづくり DNA は、工機部にも脈々と受け継がれています。

70 年の歴史をもつデンソー 工機部は、かつてない危機に直面しています。労働人口減少、ベテラン技術者の退職、若手人材の採用難など、日本のものづくりが抱える課題は同部にとっても深刻です。「10 年後にベテラン技術者の半数が引退します。設備に特化した高い技能・技術を有するプロ集団であるがゆえに、穴埋めは容易ではありません」と工機部長 伊東 貴博 氏は話し、こう続けます。「本質的な課題は、若い世代のものづくり離れです。現世代のノウハウ継承と、若い世代の挑戦を支える環境構築に向けて、デジタルと AI を活用し設備づくりを進化させることが急務です」

競争力の観点では、ものづくりの進化とマネジメントの強化は両輪となります。「中国や米国の設備メーカーはデジタル化が進んでいます。意思決定のスピードも速いです。また、製品ライフ サイクルが短縮化する中、従来通りのマネジメントでは設備製作のリードタイムが伸び、コストの増加も招きます」(伊東 氏)

2023 年に、工機部は AI を活用した DX による、設備づくりとマネジメントの変革に着手。ポイントは、現場を変革するのは現場自身であるということ。変革に向け、最初に取り組んだのが部内の合意形成でした。「ベテラン、中堅、若手と語り合うグループ ミーティングを重ね、1,000 名を超える部員から現場の声を直接聞いていきました。その中で私から問いかけたのは『このままで 10 年後もスピーディに高品質な設備づくりが行えるのか』でした。変革に取り組むためには、覚悟が必要だったからです」(伊東 氏)

2 つの変革実現の鍵を握る AI について伊東 氏は言及します。「生成 AI は利用するほどに汎用的回答に近づきます。当部が求めたのは企業文化を生かし、従業員の能力を最大化する AI 伴奏型業務へのシフトでした」

伊東 貴博 氏, 工機部長, 株式会社デンソー

“生成 AI は利用するほどに汎用的回答に近づきます。当部が求めたのは企業文化を生かし、従業員の能力を最大化する AI 伴奏型業務へのシフトでした。”

伊東 貴博 氏, 工機部長, 株式会社デンソー

コミュニケーション情報と業務データを活用し AI 伴奏型業務を推進

伊東 氏は、工機部における AI DX 構想について 3 つのポイントを説明します。「1 つ目は、小さくアジャイルにスタートできること。走りながら改善するアプローチがデジタル技術を活用した変革には適しています。2 つ目は、投資計画から営業・受注、事業計画、設備設計、調達・生産管理、設備製作、量産まで一連の業務を AI や AI エージェントが連携しながらアシストすること。3 つ目は、業務データはもとよりメールなどコミュニケーションのデータを活用できること。コミュニケーション情報には、企業文化があらわれており、AI と組み合わせることで、工機部ならではの業務変革が行えると思っています」

AI DX 構想の方向性の正しさを、設備 DX 推進室のメンバーからの提案が導いてくれたと伊東 氏。工機部 設備DX推進室 業務プロセス変革課長 中山 英明 氏は振り返ります。「当部では従来から Microsoft 365 を利用していました。Outlook のメールや Microsoft Teams などの日々の会話には、報告資料などに書かれていない思考の足跡があります。それを AI に読み込ませることで、デンソー 工機部しか得られない価値が生まれます。またプラットフォーム、AI 開発ツール、データレイクなど AI DX に必要なものを、マイクロソフトなら統合し全工程で利用できます。AI DX 構想とマイクロソフトの世界観は一致していました」

工機部の AI DX は、コミュニケーション情報と、プラットフォーム上に蓄積した業務データやナレッジを、Copilot や AI エージェントが活用し業務を高度化します。ポイントは、AI 伴奏型の業務を推進することで、従業員は創造と判断を行う仕事へシフトしていくということです。

工機部は、AI DX を支えるプラットフォームとして Dynamics 365 を採用。理由について、同部 設備DX推進室 工機IT変革課 担当係長 鈴木 正幸 氏は話します。「Dynamics 365 は小さく始めることができます。1 つのプロジェクトで AI エージェントを開発・導入後に、Dynamics 365 が伴走しながらデータを貯めて活用していくといったアプローチです。また、デンソー本社の基幹システムを改修することなく、必要なデータ連携を行い AI 活用するため、手間も工数も構築期間も大幅に削減できます。また、上流から下流まで一貫性をもってプラットフォーム化が行えるため、個別ツールの導入で起きる運用管理の複雑化も回避できます」

中山 英明 氏, 工機部 設備DX推進室 業務プロセス変革課長, 株式会社デンソー

“Outlook のメールや Microsoft Teams などの日々の会話には、報告資料などに書かれていない思考の足跡があります。それを AI に読み込ませることで、デンソー 工機部しか得られない価値が生まれます。”

中山 英明 氏, 工機部 設備DX推進室 業務プロセス変革課長, 株式会社デンソー

構造化データを活用し Copilot、AI エージェントの精度が向上

2024 年春、AI DX の推進に向けて Dynamics 365、Microsoft Power BI、Microsoft Copilot Studio などの導入を決定。構築における最初の課題は、AI-Ready なかたちで、いかにデータを整えるか。「案件、担当者、コスト、取引先などすべてを紐づけてマイクロソフトのクラウド データベース サービス Dataverse に格納し、それを Dynamics 365 で流しています。データが構造化されているため、Copilot や AI エージェントが活用しやすく精度の高い回答が返ってきます」(中山 氏)

財務や購買など基幹システムとのデータ連携では、リアルタイム性が求められました。「従来は、夜間バッチ処理で前日のデータが入ってきました。しかし、それでは遅い。意思決定のスピードと正確性を高めるためには、鮮度と精度の高いデータを集めることが欠かせません。今は、必要なデータに関して、基幹システムの更新がリアルタイムで Dynamics 365 に反映されます。データが動いている中でエラーや矛盾が出ることがないように、試行錯誤しながら細部を作り込みました」(鈴木 氏)

AI DX により Dynamics 365 を通じた AI 伴奏型業務へとシフトします。現場の理解をいかに得るか。実務者として今回のプロジェクトに関わった、工機部 工機2工場 生産管理2課 渥美 慎吾 氏は、「設備づくりに対する思いと前向きな姿勢を、熱意をもって伝えました。反対意見を持つ従業員も少しずつ耳を傾け、最終的には “やってみようか” と言ってくれました。また、要望を聞くボックスも設けました」と話します。

AI DX による業務変革では外部との調整も必要です。設備をつくるための部品を手配する、工機部 工機2工場 生産管理4課 市村 孝治 氏は従来の課題について「これまで部品メーカーからの納期情報は紙で受け取り、それを担当者が Excel に手入力していました。人手に頼る運用だったため、手間がかかるうえ、情報の更新などにも時間を要していました」と振り返り、こう続けます。「Dynamics 365 で納期管理フローを自動化するには、部品メーカーからの納期回答をデジタル化する必要があります。しかし、メーカー側のシステム状況もあるため、調整は容易ではありません。そこで現在は、設備DX推進室が開発した AI ビルダーを使って、各メーカーとの納期確認におけるメールのやりとりを構造化データに変換して活用することを検討中です」

鈴木 正幸 氏, 工機部 設備DX推進室 工機IT変革課 担当係長, 株式会社デンソー

“Dynamics 365 は小さく始めることができます。1 つのプロジェクトで AI エージェントを開発・導入後に、Dynamics 365 が伴走しながらデータを貯めて活用していくといったアプローチです。また、デンソー本社の基幹システムを改修することなく、必要なデータ連携を行い AI 活用するため、手間も工数も構築期間も大幅に削減できます。”

鈴木 正幸 氏, 工機部 設備DX推進室 工機IT変革課 担当係長, 株式会社デンソー

AI DX により作業工数を 20% 削減、年間 8 万時間の創出を見込む

工機部は、2024 年中頃から Microsoft Azure や Copilot Studio による AI 開発に取り組み始め、2025 年にデータ分析プラットフォーム Microsoft Fabric の導入で本格化しました。Microsoft Fabric は、データレイクである OneLake を使って一元的にデータを管理し AI で利用できます。工機部では、現在 6 つのプロジェクトが同時に進行中です。AI 開発は、内製化と外部ベンダーの両面で行われています。各プロジェクトは競い合い、互いを高めあう存在でもあります。その全体を統括しているのが設備DX推進室です。

AI エージェントの開発について、内製化に携わる中山 氏は話します。「Copilot Studioは、専門知識がなくても自然言語のプロンプトで AI エージェントを開発できるUI (ユーザー インターフェース) になっており、取り組みやすいと感じました。しかし、AI エージェント開発は先行事例や文献が少なく、トライ & エラーも必要でした。また Microsoft Fabric を活用する AI エージェント開発は、社内外の AI 開発エキスパートの協力を得ながら進めています」

すでにプロジェクトで開発したアプリは現場に導入され、成果を上げています。「進捗遅れ案件の自動フォロー チャット」は、AI エージェント が Teams のチャットで忘れたり、後回しになったりしないようにフォロー メッセージを送り、それを受けて担当者は即時対応方針を回答することで、能動的な行動を促進します。

顧客、投資区分などの特徴を踏まえて傾向を予測する「AI による受注予測」は、攻めの営業活動に生かしています。また「AI による設計担当者のマッチング」は、AI がプロジェクトに対する最適設計者を人選することで、主観や属人性を排除した人材活用に貢献。「熟練設計者の暗黙知を組織知化」は、過去トラブルを含むリスク情報をもとに、懸念と対策を AI が推奨することで、若手設計者の品質向上を図っています。「ベテランの引退時に、Teams の録画機能を使って “武勇伝” を語ってもらっています。録画データを構造化し Dataverse に入れることで有益な財産になると思っています」(鈴木 氏)

工機部では、マイクロソフト製品を活用した AI DX により作業工数を約 20% 削減、年間約 8 万時間の創出を見込んでいます。数字にあらわれない競争力について「AI は人の能力を向上するブースター (増幅器) です」と伊東 氏は強調します。

渥美 慎吾 氏, 工機部 工機2工場 生産管理2課, 株式会社デンソー

“設備づくりに対する思いと前向きな姿勢を、熱意をもって伝えました。反対意見を持つ従業員も少しずつ耳を傾け、最終的には “やってみようか” と言ってくれました。また、要望を聞くボックスも設けました。”

渥美 慎吾 氏, 工機部 工機2工場 生産管理2課, 株式会社デンソー

AI の活用が進むほど、業務は効率化・標準化されていきます。その結果、ものづくりの現場でも差別化が難しくなるように感じられるかもしれません。しかし伊東 氏は、そうした変化の先にこそ、日本のものづくりにとって大きなチャンスがあると指摘します。そして最後に、次のように締めくくります。「AI が担える作業は AI に任せることで、工機部のプロ集団は定型業務や付加価値の低い作業から解放されます。その分、これまで世の中になかったものを生み出すことに時間と労力を集中できるようになります。そうした環境こそが、AI 時代に差別化を図り続けるための基盤になると考えています。AI DX は、日本のものづくりの復権につながる取り組みです。当部は先行モデルを通じてその可能性を示していきます。マイクロソフトには、AI DX によるものづくり変革を大きな流れにしていく役割を担ってくれることを期待しています」

10 年先を見据え、設備づくりとマネジメントの変革を進めるデンソー 工機部。AI DX による取り組みは、日本のものづくりの未来を拓いていきます。

市村 孝治 氏, 工機部 工機2工場 生産管理4課, 株式会社デンソー

“Dynamics 365 で納期管理フローを自動化するには、部品メーカーからの納期回答をデジタル化する必要があります。しかし、メーカー側のシステム状況もあるため、調整は容易ではありません。そこで現在は、設備DX推進室が開発した AI ビルダーを使って、各メーカーとの納期確認におけるメールのやりとりを構造化データに変換して活用することを検討中です。”

市村 孝治 氏, 工機部 工機2工場 生産管理4課, 株式会社デンソー

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